達人
「丹下君」

達人が言う。

「私も若かりし頃は、君のように体を鍛え、筋肉の鎧に身を包み、力で、技で相手をねじ伏せてきた。しかし、如何に鋼の如く鍛え上げようとも、人間は老いる。老いれば体力も、筋肉も…全て衰える。若い時に使えた技も、いずれは使えなくなる。そんな時にどうするのか…力が、技がなくとも相手を制する技術があればいい」

「力が、技がなくとも相手を制する技術…」

まるで、夢のような話だ。

そんな技術があれば、どんなに体格や体力に恵まれなくても大男に勝つ事ができる。

女子供でも、大の男に勝つ事ができるのだ。

…それこそが達人の言う常在戦場の精神。

油断しない。

慢心しない。

いついかなる時も、己が狙われるかもしれないという事を自覚する事。

その精神こそが、隙を生まず、危険から己を遠ざける。



< 19 / 29 >

この作品をシェア

pagetop