銀の月夜に願う想い

「……いい加減その欠伸をなんとかしてもらえませんか?」

押し殺した声で、目の前で書類を読み上げていたトファダが言ってくる。

もう一回漏れた欠伸を噛み殺しながら、

「レーアに会いに行けなくて寝れないから寝不足なんだよー……」


弱々しく答えるルゼルにトファダは大きなため息をつく。

「何なら添い寝してくれそうな方、連れて来ましょうか?」

「レーアじゃないと寝れないからムリ」

即答してやると目の前の肩がガックリ下がる。

もう一回欠伸をしたルゼルは机に突っ伏した。

「眠い……」

「寝ないで下さい。まだ仕事が溜まってます」

「ん……レーアがお花畑で僕のこと手招きしてる…」

「してる訳ないでしょうが……!」


トファダがガクガク揺すってくるが、眠気が去る気配はない。だから突っ伏したまま、

「二時間したら起こして」

と言ったか言わないか分からないくらい、すぐに寝入ってしまった。


「やれやれ……」

困ったと言う顔をしながらトファダは頭を掻いた。

この、昔から女の苦手だったルゼルがここまで一人の女にハマるとは。

「どうしたものですかねぇ…」

この人は知っているのだろうか?



ご自分にレリアを愛する資格がないことを。


「知っている訳がない、か……」

この愛情で満たされた瞳を驚愕で凍らせてしまうことが可能なことを。

「あなたにレーア様は似合わないのですよ、王子」

その自覚くらい、ロアルもさせておけば良いのに。

「あぁ、あの方もあなたと同じ穴のムジナでしたね」

許さない恋をし、愛してはいけない人を愛した愚かモノ。

「本当に……、憎ったらしい」

そのときだけトファダの瞳はいつもの優しい色を浮かべなかった。

そう、まるで光の届かぬ海の底のような。



そんな彼はルゼルを一瞥すると、静かに部屋から出ていった。


< 108 / 161 >

この作品をシェア

pagetop