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勢いで床に手足をつけば、舞い上がる白い埃。
部屋の中を見渡せば、本棚にぎっしりと詰められた本や図鑑。
棚の上には地球儀や色相環立体図形。
どれも埃を被っていて、最近人が入室した形跡は何処にも無かった。

「‥‥は、な‥」
「‥!?」

金司さんは私の名前を呼んで、私を見下ろした。

‥何か、さっきと違う‥?

八重歯が鋭くなり、目の色は金色に輝き、爪が長く尖っていた。
そして、苦しそうに乱れた呼吸。

「き、金司さん‥?」
「に、げろ」
「え?」
「はよ逃げろッ!!」

そう叫んだ金司さんは、私が瞬きした一瞬で気を失った様に身体が崩れ落ちた。
ガッと鈍い音がしたと思えば、目の前がチカチカした。
頭を壁にぶつけられ、いつの間にか首に手が回されていた。
ギリギリと容赦なく入れられる力に、恐怖を感じた。
さっきとは全く違った虚ろな瞳に、絶望感が心を侵食していった。



さっきまでの金司さんとは、全く別の人の様。



だんだんと視界がぼやけて、意識がどこか遠くに感じる。
そして一粒の涙が頬を伝った。

「‥か、‥っは‥」



金司さんだけれど、‥‥金司さんじゃない。



私は足を振り上げて、腹を思い切り蹴った。
もちろん、罪悪感は大きく感じるもので‥‥。

「っ、‥血が無くなって、‥おかしくなったの‥?」

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