other contract
other contract -mark 8- 金司目線
何、やってんのや?
俺は。
「‥‥アホやなぁ」
「いつもの事でしょう」
「いつもの事だろうが」
励ましてくれているのか、からかっているのか。
微妙な気持ちの俺に、葵と紅は微妙なコンビネーションで、微妙な返事を返した。
「あ、雨降り出した」
「おいおい、傘持ってきてねぇぞ」
「ん~、でも直ぐに止むでしょ。夕立だよ」
「ならいいがよ」
ザアァ‥と、大粒の雫が重力に引きつけられて、地面に勢い良く叩きつけられる。
俺はコーヒーカップを片手に、無言でそれを眺めた。
「で、次は何を仕出かしたのかな?金ちゃん」
「‥‥」
「金ちゃん、聞いてる?」
肩を揺さぶられて、我に戻る。
「あ、ああ、スマン」
「もう、しっかりしてよ。これじゃあ先輩がまともな人に見えちゃうじゃない」
「こんの、テメェ‥何が言いてんだよッ!!」
俺は一瞬、“今”の自分が誰か分からなくなった。
華の前では“志黄”。
今は“金司”。
頭ん中がゴチャゴチャしてきて、何処からか意味の分からない苛立ちが込み上げてくる。
「あ、そこの美しいお姉さん。ハーブティーを一つ貰えるかな?あ、アイスでお願いね」
「は、はい!」
葵にオーダーされた店員の女の子は頬を赤く染めて、パタパタと駆けて行った。
「お前が飲むんか?紅茶」
「いや、僕コーヒー派でしょ。飲むのは僕じゃなくて、金ちゃんが飲むの」
「何で俺なんや?」
「何に苛立っているか知らないけど、ハーブティー飲んで、少し落ち着きましょーねぇ」
葵はそう言って、コーヒーをゆっくりと口にした。
「お、御待たせしました」
「有難う」
店員の女の子からハーブティーを受け取る際に、葵は女の子に向かってウィンクを一つ。
それを見た女の子はといえば、顔がもう林檎の様に真っ赤になった。
菫が今んとこ見たら、妬くで。
それにしても‥‥。
何や、コイツ。
エスパーかいな。
もちろん、女の子の顔を真っ赤にした事ではなくてっ!!
俺の心見透かしたようで、でも、そうでもない様で。