LAST contract【吸血鬼物語最終章】

そう思ってみても、それは違う事。
ちゃんと、確かに、僕の中に存在しているから。



スミレと過ごした日々が。



一緒に笑った事、お前の泣き顔、血の味。
お前の、手の温かさ。

全部、僕の中には存在しているんだ。



踊っていたスミレは、ふと体のバランスを崩した。
かと思えば‥‥

「うわわわっ‥!!」

‥‥扱けた。
いったぁ~いっ!!と叫ぶスミレの所に、僕はいつの間にか足を動かしていた。
こういうの、当たり前になっちゃっているからなぁ‥

「大丈夫?」

と、同じ目線になってスミレの顔を覗き込めば、スミレは一瞬ポカ~ンとして
バッと視線を外した。
暗いせいでよく分からないけど、顔が少し赤いかも。

‥‥この反応、

あの時と‥、同じ。
入学式の前日と。

「あ、えっと‥大丈夫」
「手の甲、擦りむいて血が出てるよ」
「わっ、ホントだ」

僕はその手をとって、傷をためらい無く口に含んだ。

「ちょ、ちょっと‥」
「ん、消毒」

とか言って、これは“食事”だったり。
ポケットの中からばんそこうを取り出して、ぺたりと張った。

「いつも、‥ボクを見てくれている人でしょう?」
「‥うん」

そうだね。
僕の1年前の今頃は、高校生活に疲れていた。
そんな時、本当に楽しそうに踊っていたお前を見て、何だか癒されたっていうか、何ていうか。

「高校の階段から落ちた時も、心配してくれてたね」
「うん」

僕はスミレを立たせる為に手を差し伸べた。
そっと僕の手を取ると、スミレは一瞬顔をしかめた。

「手、冷たいね。氷みたい」

花の様に笑って、そう言うスミレの手の温度は
手袋をしているせいで、分からなかった。

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