LAST contract【吸血鬼物語最終章】
「あ、もうこんな時間!!」
大きな時計を見て、スミレはミュージックプレーヤーをポケットにしまい込んだ。
ボク、もう帰らなくちゃ。といいながら何故かスミレは手袋を手から外す。
さっきは長い袖で見えなかったけれど、手に合わない大きな黒い手袋をはめていた。
「はい、これ貸したげる」
「‥僕に?」
「うん。だって手、冷たすぎだよ」
僕に手袋を差し出して、スミレは家に帰ろうとした。
10歩程足を進めて、振り返る。
「あ、明日返してね。えっと‥」
「放課後、僕がお前のクラスに行くよ」
「分かった、じゃあその時ね」
ひらひらと手を振って、スミレは曲がり角に消えていった。
「良かったじゃねぇか。学校で会って話出来るぜ?」
「‥まぁ、ね」
でも、返ってそれが辛かったりして。
そう思いながら、スミレの手には合わない大きな手袋をはめてみれば、それは見事にピッタリ。
まだ、スミレの温かさが残っている手袋は、少しずつ僕の手の冷たさを溶かしていった。
スミレ。
お前は記憶が無くなっても、
優しさと
温もりは
変わりないんだね。