LAST contract【吸血鬼物語最終章】

相手の心が分からないだけで
こんなに不安になる。
こんなに苦しくなる。

ボクがアオちゃんの事を忘れている時、アオちゃんもそう感じていた‥?

今まで大切な人の事を忘れていた自分が、腹立たしくなった。
ボクは口の中をギリリッと噛む。
じわり、じわりと広がる血の味。
ボクはゆっくりと立ち上がって、不安定な足取りでアオちゃんのもとへ行った。

‥大丈夫。

さっき『血が無くなった』って紅が言っていた。
なら、血を与えれば元に戻ってくれる。
いつものアオちゃんに、きっと戻ってくれる。

「アオちゃん」

そっと名前を呼べば、アオちゃんは反応してくれた。
それが今のボクには酷く嬉しくて。
でも、アオちゃんはその鋭い爪をボクに向けてくる。

大丈夫。

自分にそう言い聞かせながら、微かに震える足をアオちゃんのところまで進めた。
ボクを裂こうとするその爪をアオちゃんが大きく構えた時、ボクは不意を衝いて



アオちゃんに口付けた。



血を、与える為に。



こくんっと喉が鳴ったのを確認して、そっと口を離す。

アオちゃんの瞳は、深い深い海の色から、綺麗な空の色へと変化していった。
八重歯も、爪も、鋭さが無くなっていった。

ボクはアオちゃんを懐で抱きしめた。

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