LAST contract【吸血鬼物語最終章】
「‥しない、そんな事しないよ」
降ってきたモノは、拳でも、平手でもなかった。
「え、何で‥」
僕はてっきり殴られるもんだと思っていた。
先輩にあれだけの傷を付けたんだ。
桃は今、僕の前で優しい笑みをしているけど
きっと、辛い。
「葵さんを殴ったら、紅の怪我は治るの?」
「‥ぇ?」
「葵さんを殴って、自分が、‥紅がスッキリすると思う?」
「‥‥」
「紅が満足すると思う?」
桃は、優しい。
「あ~、俺それくらいじゃあ、満足しねぇぞ」
「‥せ、先輩‥」
「だから、理科のノートも写させろ」
「‥‥は?」
「良く考えたらよ、理科のノートは真っ白だった」
「‥寝てたの?」
「何してたっけな?」
先輩も、きっと優しいんだろうね。
「それにな、殴って満足するなら、とっくの昔に殴ってるぜ。なぁ、桃」
「紅ったら‥。あのね、“我を失った”時の事だもん。わざとしたとか、そんなのじゃない」
僕の隣を抜けて、華ちゃんから薬箱を受け取った桃は、先輩の前に座り直した。
ゲッ!と顔を引きつらせる先輩に、満面の笑みで薬を塗ろうとする桃。
あんなに五月蝿い先輩を黙らせる事が出来る桃は、ある意味最強だ。
「だから‥仕方が無い事だと思う」
―――仕方無い、か‥