LAST contract【吸血鬼物語最終章】

室内は、アオちゃんがいた時のまま。
綺麗に物が整理整頓されている、清潔感のある部屋だ。

「アオ‥ちゃん」

不意に、口から零れ落ちる名前。
静かな響きを残して、消えていった。

「‥アオちゃん」

呼んでも返事が返ってこない事は、分かっている。
それでも、呼んでしまうのは‥‥

「アオちゃん」

安心、出来る気がしたから。
貴方の名前を呼ぶと、落ち着いて、安心出来る。
そう、思ったから。
けれどもその分、返事が無い事に虚しさが込み上げてくる。

「会い、たいよ‥」

掠れた声になったのは、涙が出てきたから。
切なさで、こんなに苦しいのは、貴方に会いたいから。
その時ポケットに入っている携帯電話が鳴って、ボクはそれを手に取った。
桃からの、着信。

「‥もしもし」
『あ、菫?あのね、葵さんの居場所分かったよ』

ドクンッ‥と心臓が一つ、高鳴った。

『葵さんの実家にね、紅が連絡してみたら、そこにいるって』
「‥そ、なんだ‥」
『ねぇ、菫‥‥明日、葵さんに会いにいこう‥?』

桃の事だから、そう言うと思ってた。

ボク、アオちゃんに会いたい。
すごく、会いたいよ‥?

でも‥‥



「‥怖い、よ」

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