初恋~俺が幸せにしてみせる~
何だかんだと話をして
1時間以上の時間が
経過しようとしていた

今までに経験した事の
無いような告知だった

オペは出来ない

延命治療もしない

ただひたすら死を待つ

潔い男の決断だった

俺が計画していたのは
抗がん剤を使って
少しでも命の灯を
長くさせようとする
治療を考えていた

それを嫌だと、患者が
拒めばそれに従う

俺が医者を目指した
その理由を、今回も
また果たせなかった

ばあちゃんのように
気付くのが遅くて
手遅れになる人を救う

それが出来なかった

俺の夢はまだまだ先に
ありそうな気がした

こんな命を救いたくて
医者になったはずなのに

自分の不甲斐なさに
嫌気がさしてくる

『どうか、最後まで
よろしくお願いします』

2人は深々と俺に
向かって頭を下げた

そして会議室を
静かに出て行った

俺は椅子に深く腰かけ
大きなため息をついた

ほんの1時間ほど前までこんな気持ちになるとは想像もつかなかった

千穂の笑顔が脳裏に
浮かんでは消える

千穂に伝えたら、千穂は事実を受け入れて
くれるのだろうか

そればかりが浮かぶ

俺が出来る事は何だろう

少し考える必要が
ありそうだった
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