初恋~俺が幸せにしてみせる~
翌日、千穂は走って
俺の元へ急いでいた

息を切らしている千穂の両肩に手を当てて
落ち着くんだと促した

そして状況を話した

俺が奥さんと話を
している間に千穂は
北川さんに会うんだと
伝えていたけれど
千穂の体は小刻みに
震えていて、心配になる

ちゃんと最後の別れを
告げるように話したが
大丈夫なんだろうかと
不安になってしまう

千穂の気持ちを考えて
俺までドキドキしていた

もう本当に最後だと
千穂もわかったはず

その命がもうすぐ
消えていく事を千穂も
受け入れてくれたはず

俺の位置を確認出来る
少し離れた場所で
千穂を待たせていた

俺と北川さんの奥さんが見えなくなってから
北川さんの病室に
向かうように指示をした

それから数分して
奥さんが俺の所へ
ゆっくりと歩いてきた

『どうぞ』

部屋へ案内しながら
千穂を見ると、じっと
俺の行動を見ていた

いってこい!

心の中で叫んでいた

そして俺は仕事である
奥さんへの最後の
告知を始めていた

奥さんは泣きながら
ハンカチで目頭を抑え
ただ俺の言葉に頷いて
いるだけだった

本心で泣いているはずと思いながらも、なぜか
複雑な心境だった

『今夜、もう一度
意識がなくなった場合
蘇生するのは不可能に
近いかもしれません』

俺の言葉が部屋に響いた
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