初恋~俺が幸せにしてみせる~
それから俺は千穂に
電話をかけた

動揺のせいで口数の
少ない千穂に明日病院へ来るようにと伝えた

俺はここ何日も病院に
泊まりこんでいた

いつ消えてしまっても
おかしくはないその命が俺を家に帰そうとは
しなかったからだった

何度か意識がなくなり
ナースコールが鳴る時は俺の心臓は鼓動を
早くしていた

そうやって、延びてきた命がもうすぐ消えていく

もう限界だと悟った

痛みに歪む顔を見たり
痙攣を起こしている
状況から考えても
その命はもう微かな
灯をともしているだけ

少し安定している今日の状況であれば、明日は
少しでも千穂と話が
出来るだろうと思った

奥さんへの最期の
知らせも重要な俺の
仕事だった

今日、明日が限界で
ある事を告げるのは
もちろん辛いけれど
そんな日が来るのが
遅いか早いかの問題で
近々必ず訪れる

奥さんには悪いけど
俺は千穂と北川さんを
会わせてやりたかった

弱った北川さんを見て
千穂がショックを
受ける事になっても

俺はそれを受け入れて
欲しいと思っていた

千穂との電話を切って
もう一度北川さんの
病室へ向かっていた

そして優しい笑顔と
向き合っていた

『苦しいですか?』

『ええ、時々。でも
今日はとても調子が
いいような感じです』

『それは良かったです』

いつもの会話だった

もう少しだけその命を
頑張って保って欲しい

最後の幸せを俺が
届けてあげますから

心の中で唱えた
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