Melty Kiss 恋に溺れて
「そ、そうなんですか?」

初めて彼の気持ちに気づいたふりで、私は瞳を大きくして見せる。
みせるというか。
もう、私の身体も心も芝居に入っていたので、さほど意識せずとも自然に瞳が大きくなる。

思わず椅子から立ち上がる私の手を、引き止めるかのように軽く渡辺先生が握った。

それは、あまりにも自然で。
きっと馴れているのだろうと、予想がつく。

「あ……っ」

清純派の乙女を演じている私は、もちろんこの程度で頬を染め上げることも可能だ。

本当。
こんな感じで大雅の前で振舞えたらどんなにいいかしらって思っちゃう。

あ、駄目駄目。
今は大雅のことを考えている場合じゃないの。

集中しなきゃ。

「いや、あの。
驚かせる気じゃなかったんだ。
ほら、八色ってこう美人だから、どうしてもこう目が行っちゃって」

手を放さないまま、照れたように渡辺先生が笑う。

「……あ、ありがとうございます」

小さく震える声。
私は瞳を伏せた。

突然の告白に緊張している乙女に、見えることを願って。
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