Melty Kiss 恋に溺れて
そうして、一呼吸置いてから潤んだ目で渡辺先生を見上げる。

「私も。
渡辺先生かっこいいなって、入学したときから気になっていたんです。
でも、先生もてるし……。
だから、私なんて駄目かなって。
思ってました」

自分でもびっくりするくらいの愛の告白がすらすらと口から出てきた。

どうして、こんな風に大雅には言えないんだろう。

……っていうか。
  大雅に告白したら、どんな顔をするのかしら。

少しは驚いてくれるかしら。
それとも。
いつもみたいに、何でもお見通しみたいな顔で、ありがとうってキスしてくれるのかしら。

緩やかに、渡辺先生の顔が近づいてきた。

どきり、というよりは。
ぞくり、として。

私は慌てて手を振りほどいて一方後ろ遠ざかる。
演技でもなんでもなくて、本能がそうさせた。


私は、何も知らないうぶな子に見えただろうか?
否。
実際、何も知らないうぶな子なのだ。

渡辺先生は照れ隠しのように髪をかきあげて笑う。
白い歯がきらりと零れた。

彼は私に訴えられるわけにはいかないはずだ。
だって、うちの(義理の)父親はこの高校に対して莫大な寄付をしているのだから。
私に嫌われたら、彼の首は確実に飛ぶ。

「そうか、八色はお嬢様だもんな。
いいよ、ゆっくり先生が教えてあげるよ」

「……はい……」

私は少しだけ頷いて、生徒指導室を飛び出していた。
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