Melty Kiss 恋に溺れて
走ろうとした途端。

手が握られてはっとする。

顔をあげると、ダークスーツに身を包んだ大雅が居た。
どどど、どうして?
ここ、高校なんですけど!?

高校には似つかわしくない大雅が、あまりにも自然にそこに立っているので私は目を丸くする。

「何があった?」

きらりと、鋭く大雅の瞳が光る。
焦っているのだろう。そこからはいつもの優しい口調も、敬語すら消えていた。

「ううん、なんでもないの。
あの、説教受けていただけだから」

焦った私は彼を伴って近くの非常階段から降りた。
先生と鉢合わせされると厄介だし。

「本当ですか?」

探るように私の瞳の奥をじっと見つめる大雅。

こくこくこくと、私は頷くのに必死だ。
さっきまで、大雅より年上の渡辺先生を相手にあんなに上手に芝居が出来たのに。

大雅の前ではまるで、丸裸にされたかのように指一本たりとも満足には動かせない。
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