Melty Kiss 恋に溺れて
キスだけで、全身、溶けてしまいそう。


「……なん、で」

ようやく自由になった口で、ようやく言ったのがその言葉だ。
肩は短距離走でも走った後みたいに、激しく上下に動いている。

一方。
大雅はなんでもないみたいな涼しい顔で、いつものように甘い笑みすら携えて私を見つめていた。

その細い指先が私の涙を拭う。


なんで、こんなキスするの?
ますます忘れられなくなっちゃうんじゃない。
酷い。
意地悪にも程がある。

どうしてよ。


どうして……


「こんな大人なキス、奥さんとしなきゃ駄目なのに」

私の言葉に、大雅はくすりと笑う。
子供を宥めるような笑い方だ。

「それは困りましたねぇ。
では、都さん。
こちらにサインを頂けますか?」

驚いて顔をあげた私に。
彼はひらりと薄い紙を見せる。


……こ、婚姻届。

しかも、私の署名欄以外全て、彼の綺麗な字で埋められていた。
なんなら、紅い印すら押してある。

いや、彼の名前横だけでなく。
私の名前横にまで、勝手に、「八色」って!

証人の欄に、お母様とパパの署名までしてあった。
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