蜜事中の愛してるなんて信じない
 乗り換えを重ね、最後に乗った電車は『ゆりかもめ』だった。

 狙っていた一号車の最前列には、小さな子供が陣取っていた。

 しぶしぶすぐ近くの対面シートに向かう。

「アンタ、ちょっと、席代わってよ」

 窓際に座った正志のTシャツと引っ張る。

「……断る」

 窓の外を眺めながらそう呟いた正志に、一瞬呆気に取られた。
 しかし、ここで引く由香子さんではない。

「断るのを断る!!」

「うっせ、ガキ」

「どっちがガキよ。大人だったら、余裕綽々で席代わるわよね」

「大人だったら、席代われだのぬかさねえな」

「私は、海を見たいの」

「それがガキだっての。
つべこべ言わず、ここ座っとけ」

 乱暴に腰を掴まれて、隣に座らされた。当然、納得がいかない。

「ふん、アンタだって、海が見たい癖に」

「……うっせ。俺は窓際に座る主義なんだよ」

 正志は、窓に顔を向けながらそう言った。

< 29 / 51 >

この作品をシェア

pagetop