かけがえのない唄
────
──…………



「妃菜」



ぎゅっと抱ききしめられた力がふっと抜けたと同時に名前を呼ばれた。



「な、に?」



そう答えるのが精一杯で。




「目、瞑って」



そう言われて素直に目を瞑ると、手を持ち上げられ、




左手の薬指に



ひんやりとした感触。






「ん。目、あけていーよ」



純のその言葉でゆっくり目をあけると。




シルバーリングが薬指につけられていた。



指輪だってことはなんとなく感覚で気づいてたけど、シルバーリングとは思ってもみなかったから、物凄く、物凄く驚いて、





そしてものすごく



うれしかった。






「みて?」



と見せられた純の左手の薬指には、お揃いのシルバーリング。




うれしくって
うれしくって



涙が出た。




「ほら、泣くなって」




ちょっと困ったような純は、ぶきっちょにあたしの涙を指ですくってくれた。




「だって、だって、だって……」




この気持ちをどう表現していいか分からなくって、『だって』を繰り返してしまう。



どういっていいか分からない。




嬉しいを通り越して、何ていうんだろう、



あぁ、言葉で表現出来たらいいのに。




言葉に出来なくてもどかしくって。でもあたしは表現できないでいた。




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