放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
「お腹でも痛かったの?お弁当残してくるなんて、今までなかったじゃない?」

そうだ、まずった…。昼休み弁当途中まで食って、フタしちゃったんだった。
家着いたらすぐ“弁当箱出せ”って言われて、そのまま渡しちゃったよ。

母ちゃんが心配そうに俺を見てる。
返答いかんでは、俺のお腹をスリスリしかねない勢い。

さすがに16歳で母ちゃんに腹をさすられたくはない。

そんなことされたら思わず殴ってしまいそうだ。
「ばばあ〜!てめえ〜!何俺様の腹さすってんだよ〜!」
鼻血を流す母と血染めの拳を握る息子。

阿鼻叫喚だ。
そんな地獄絵図は避けたいと願う俺は孝行息子。

「部活の練習が激しくてね、昼にたくさん食べると練習中、身体が重くてきついんだ。だから、昼は軽く食べたの。夜にたくさん食おうと思って」

俺の返答に安心したような母親。いいぞいいぞ!
このままたたみかけろ!

「せっかく作ってくれた弁当残してごめんね、でも部活頑張りたいんだ。あ〜、俺もう腹ペコだよ。母ちゃん早くご飯にして」

100点!どうやら正解だったみたい!母ちゃんニコニコしてる!

「昼にあれしか食べてないなら、そりゃペコペコよね。夜ご飯はたくさん食べなさいね♪」

早速食卓におかずを並べ始める母親、椅子にお行儀良く腰掛けてる俺。
乗り切った、家族崩壊の危機は乗り切ったぞ!

「も〜う、心配かけないでね。ホントてっきり、お腹の調子が悪いのかと思ったわよぉ♪」

と言いながら母親、去りぎわに俺のお腹をさすりやがった…。

…。

「どうしたの?急に黙りこくって?」

俺は“別に”と答え、淡々と食事を進めた。

「鼻パンチを食らわなかっただけ、ありがたいと思え!」
と心の中でつぶやく夕食。

母ちゃんは気にすることもなく相変わらずニコニコ。

「ほら、これも焼けたから食べなさい」

なんて、また皿を運んできた。

「なんてったって、大好物だもんね〜。た〜くさん食べなさい♪」

置かれた皿を見れば、やっぱりチョリソーだ…。

…。

母ちゃんニコニコ息子無言。

そんな食事がいつまでも続いた。
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