放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
だいたいやね、何かを得た時には、何かを失うんやね。
人間一人が持てる物なんか、限りがあるんやからね。
まあ、遠山はんの場合、うわばきの茶色い染みを気付かれへんかった代わりに、キム・ジョン○ルみたいやなぁ言われることになったゆうかな。

…。

2時間目の授業は地理だ。

西脇先生が出席をとってる。

「遠山、…、遠山?」

遠山くんはさっき帰った。
帰った人間が返事をするはずもない。

「…、めずらしいな…、遠山は休みか?」

遠山くんは休みではない…。
五分前まで教室にいたのだ…。

まあ、ずぶ濡れだったが。

「おいっ」

西脇先生が俺に尋ねてくる。
こういう時、前の席なのがうらめしい。

「おいっ、遠山は朝からいなかったのか?」

「…。」

なんて答えれば良いんだ?
まさかクラス中から
“キム・ジョ○イル♪キム・ジョン○ル♪”
の大合唱を受けて、泣きながら帰ったとは言えない。

そんなこと言ったら、遠山くんの沽券にかかわる。

仕方ない、西脇先生には悪いが、ぼかして答えることにしよう。

「え〜っと…、遠山くんは…、一時間目が終わったら…」

ゆっくり言ってるので、西脇先生がなぞってきやがる。

「うん、遠山は、一時間目が終わったら…?」

俺はなるべく小さい声で続ける。
「…、一時間目が終わったら…、帰国しました…」

西脇先生、怪訝なフェイス。
「帰国…?…、帰宅か…。風邪かなんかか?」

風邪かどうかは知らないが、続けるしかない。

「え〜と…、ビショビショでした…」

西脇先生、心配そうに、
「熱か?…、汗かいてたのか…、う〜ん、テスト近いからな、みんなも風邪には気を付けるように」
< 68 / 101 >

この作品をシェア

pagetop