Dolce



彼がぶつかったのは左側。
紙袋にも思いっきりぶつかっていたから、ケーキは崩れてしまっているだろう…。


「あ、本当に大丈夫ですから。気にしないでください。」


カランカランー


彼はお店のドアを一度閉めると、真っ直ぐに私を見た。


『何か書くもの持ってますか?』

「え…?」

『ペンとか…何でもいいから。』


よく分からないままカバンの中からペンケースを取り出し、彼に渡す。


『本当にすみません…ちょっと事情があって、いまはケーキのお詫びとかできないから…後で電話もらっていいですか?』

彼は早口でそう言いながらしゃがみ込み、私の左手に下がる紙袋に11ケタの数字を書いた。


『じゃ…本当にすみません!!』


カランカランー


そう言いながら、お店の中に入って行ってしまった。



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