太陽が見てるから

涙雨交差点

近頃、大切なものを失うような気がして、おれは焦っていたりする。

気が気じゃない。

家の庭に、トルコギキョウの花が咲いた。

鈴蘭の花を真っ逆さまにしたような形の花で、花びらの縁をショッキングピンク色がぐるりと染めていた。

梅雨も明け、夏が始まった。

新しいクラスに馴れたものの、翠と健吾と離れてしまった。

毎日がつまらない。

大切なものを失うような気がして、気が気じゃない。

席も窓際族から外され、教卓に近い前から2番目の席で。

両隣は大学進学に全てをかけているようなガリ勉で。

唯一の救いと言えば、チームメイトの五十嵐佑(いがらしゆう)と、マネージャーの花菜がクラスメイトという事だった。

五十嵐が佑の名字だから、みんなからは「イガ」と呼ばれている。

勿論、おれもそう呼んでいる。

ベビーフェイスで明るい性格で爽やかに笑うイガは、次期サードを約束されている瞬発力に優れたやつだ。

人見知りをしないイガは、すでにクラス1の人気者だ。

おれとイガと花菜は2年生になってから、毎日のようにつるんでいる。

昼休みになれば翠も健吾もおれ達の教室に集まり、みんなで一緒に昼を満喫していた。

最近は、練習と昼休みが一等好きだ。

翠が居るから。

ただ、おれは初めて野球以外での悩みを抱え始めていた。

古文の授業で漢和辞典を使うのに、朝寝坊したおれはすっかり忘れていて、あいつから借りようと思い翠の教室に向かった。

おれは2年A組で、翠は2年E組だ。

これまた、見事に離れてしまったものだ。

「翠! 漢和辞典かして」

まだ見馴れない教室の入り口の戸に寄りかかり、おれが声をかけても翠は話に夢中になっていて気付く気配がない。

最近、これが多い。

「お、響也! どうした?」

「健吾……悪い、漢和辞典かして」

翠と健吾は今年も同じクラスメイトになった。

突然の来客のおれに、忘れ物なんて珍しいな、と言いながら健吾が漢和辞典を持ってきてくれた。

「ああ、さんきゅ」

健吾にお礼を言いつつも、おれは不快な気持ちを全面に出して翠を見つめた。


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