太陽が見てるから
ね、ドラマチックでしょ、月9のクライマックスみたいでしょ、と翠は言った。

「ぷ……で、おれは翠に何て言うべきなの?」

翠はにたりと笑って、左耳で世話しなく光っているシルバーピアスに強く触れた。

「夏井驚也は吉田翠を愛しています。世界中の誰よりもー! って叫べ! 語尾はしっかり伸ばす事」

翠の笑顔の後ろで、春のやわらかい陽射しがおれ達を燦々と照り付けていた。

おれはついつい笑ってしまう。

「何だよ、それ」

「何だとは何だ! バヤカロー」

「まんまパクりじゃねえか。つまらん」

「えー! いいじゃん、それくらい。あたしはかよわい乙女だ! 憧れんじゃん。いいでしょ」

「えー……保留。恥ずかしいし」

「はあー? 男のくせにケチだな」

翠。

考えておくよ、翠。

その言葉を堂々と言えるくらいの男になれるように、頑張る。

春の陽光が乱反射する浅瀬。

静かで穏やかな波音がクラシック調のBGMの代わりだ。

「まあ、気長に待っててよ。絶対エースになるつもりだから」

なんて、カッコつけて言ってみる。

「当たり前じゃ! なんなきゃぶっ殺すじゃ済まないから。日本海に沈めて……」

翠は他人に隙を見せない。

でも、フランス人形は、ときどき隙だらけだ。

おれは翠の細いうなじに手を掛けて、顔を近付けた。

どきどきした。

フランス人形の唇はひんやり冷たくて、さっき食べた塩ラーメンと海の味がした。

「何であんたはそうなのよ! 信じらんない!」

顔を真っ赤にしてどきまぎする翠の細い体を、おれは恐る恐る抱き締めた。

馬鹿みたいに幸せな事に気付いた。

「何がだよ」

「何でいつもいきなりなのよ!」

「だって、フランス人形は隙だらけだから」

波の音が、金色に輝いていた。






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