太陽が見てるから
三章:夏叶

スクリューボール

南高校の校門を出ると、真っ先に見事な八重桜のトンネルがある。

毎年、ソメイヨシノが散っても、しばらくは咲き盛りを保つ。

今年もきっと、見事に咲き誇ることだろう。

八重桜は、生き様がすごい。

まるで、翠のようだ。

なごり雪が混じった春の風にビョオビョオ叩かれても、なかなか折れない。

絶対に、枯れたりしない。

散っては咲き、散っては咲き。

また、来年も咲く。

その次も、また次も。

おれみたいにひょろひょろした根っこじゃなくて、しっかりした根っこがあるからだ。

だから、強いのだろう。

だから、翠はあんなにきれいなのだろう。









地元のテレビ局にチャンネルを合わせると、春の選抜県予選の決勝戦がクライマックスを迎えていた。

解説者が狂ったような声を上げた時、おれはテレビの画面にへばりついた。

「打った! 打ったあー! 逆転サヨナラー!」

「9回裏、東ヶ丘エース、藤森(ふじもり)! 打たれましたー!」

「やはり今年も横綱桜花! 強い! 最後は平野のサヨナラ二塁打!」

修司もまた、根っこの強い八重桜だ。





今年も横綱桜花

逆転され、再逆転した横綱のミラクル逆転劇

大砲平野 サヨナラ二塁打






その見出しが翌日の地元スポーツ新聞の一面を飾ったのは、言うまでもない。

またしても修司は、おれに差を見せ付けてずっと先を走っていた。

今年の春の甲子園行きの切符も、修司率いる桜花大附属が掴みとった。

手術の翌日、翠は麻酔から醒めて、一週間後にはまた個室へ戻った。

今は顔色も良く定期的に検査の日々の中、放射線治療を受けながら翠は笑っている。

と言いたいところだが、春になってすぐに翠は退院した。

まだ、なごり雪の春の始まりに、翠は今もおれの隣で豪快に笑っている。









「このチキンエース! シャキッと投げろや!」

ひとつ、冬を越えて翠の髪の毛は少し伸び始めて、フランス人形の風格を増した。

春休みは翠に全然かまってやれないほど、練習ばかりの毎日だ。



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