太陽が見てるから
翠が泣くわけないと思う。


確かにびっくりはするかもしれないけど。


またしれっとして、しらけた顔で、ハローなんて笑うに決まっている。


この、タチアオイのように。


「夏井」


突然、相澤先輩がおれの頭をペンと叩いた。


「痛ってえ」


「早く行ってやれよ。夏井と会いたいだろうから」


「じゃあ、行きます。すいません」


18時には車に戻る事を約束して、おれは夕暮れ時のアスファルトを走った。


病院の救急入り口には大きな木が1本立っていて、深緑の葉が西風にそよいでいた。


木の真下で、思わず足を止めた。


「すげえ……」


まるで、シャワーを浴びているようだった。


朱色の木漏れ日。


ジリジリと焦がすような音が、上から降り注いでいた。


蝉の鳴き声。


アブラ蝉、カンカン蝉。


「暑っち」


つるつるの白い包装紙を優しく抱き締め、額の汗を手の甲で拭い、夕空に想いをはせる。


翠の顔を見たら、一言目に何を言おうか。


ゴーと音がした。


朱い空を、飛行機が飛んでいた。


よう、復活したか。

なんて言ったら、翠はムッとしてしまうだろうか。


負けず嫌いだから。


好きだ。


突然、そんな抜けた事を言ったらバカじゃないのと呆れられるだろうか。


翠は照れ屋だから。


巨大なビルのような建物を見上げ、西陽が眩しくて目を細めた。


ひこうきぐも。


おそらく、あそこあたりだろうと想定して、病室の窓を見上げた。


どうだ、それ見たことか、決勝きめたぜ。


なんてカッコつけてみたらどうだろう。


ぶっ殺されるかもしれない。


翠は、気高く高飛車なとこがあるから。


フンと鼻で笑われて終わるかもしれない。


会いたかった、とでも言おうか。


このタチアオイを渡しながら。




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