ILLICIT LOVE〜恋するタイミング〜
舞台の袖や客席から、一瞬ざわつく声が聞こえた。
呆然と目を見開いているウシオから唇を離すと、
私は「さよなら…!」と叫んで、再び袖に走った。
大粒の涙が頬にこぼれた。
そういえば今日はサキさんも観に来ているのだろうと思ったけど、もう後の祭りだった。
「お前、何勝手にセリフ変えてんだよ…?!」
袖に戻るとガンさんに小声で文句を言われたけど、
私は「すみません」と開き直ると、
そこからステージに立ち続けるウシオの姿を見守った。
ウシオは台本と異なる芝居を打つ羽目になったというのに、
まるで何もなかったかのように落ち着いて、
稽古どおりの情熱的な独白シーンを見せていた。
こうしてウシオを見ていられるのも、たぶん今日が最後だろうな…。
私は涙を拭いながら、
彼の雄姿をこの目に焼き付けておこうと思った。