ILLICIT LOVE〜恋するタイミング〜

舞台の袖や客席から、一瞬ざわつく声が聞こえた。






呆然と目を見開いているウシオから唇を離すと、


私は「さよなら…!」と叫んで、再び袖に走った。






大粒の涙が頬にこぼれた。


そういえば今日はサキさんも観に来ているのだろうと思ったけど、もう後の祭りだった。






「お前、何勝手にセリフ変えてんだよ…?!」




袖に戻るとガンさんに小声で文句を言われたけど、


私は「すみません」と開き直ると、


そこからステージに立ち続けるウシオの姿を見守った。




ウシオは台本と異なる芝居を打つ羽目になったというのに、


まるで何もなかったかのように落ち着いて、


稽古どおりの情熱的な独白シーンを見せていた。




こうしてウシオを見ていられるのも、たぶん今日が最後だろうな…。




私は涙を拭いながら、


彼の雄姿をこの目に焼き付けておこうと思った。
< 223 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop