涙は煌く虹の如く
「……!?」
丈也は混乱していた。
ふと賢の方を見やると平然とした様子でゲームを続けている。

「あんら、丈ちゃん…!」
頓狂な声と共に久子が姿を現した。
漁村に似つかわしくないケバケバしい化粧と服装だった。
香水の匂いが丈也の鼻を突き、その無遠慮な香りに丈也はむせ返った。

「こ、こんにちは…久しぶりです…」
伏し目がちに挨拶をしてしまう丈也。
「何だや…?誰か来てんのか…?」
野太い男の声が飛び込んできた。
「ん…?」
久子の後からスーツ姿でオールバックのでっぷりとした中年男が現れた。
「誰や…?」
丈也を一瞥した上で男は久子に尋ねた。
「東京の親戚の子。来年受験なんでこっちで勉強させたいって連絡あったのよ…」
久子の返答はどことなく丈也を歓迎していないような複雑なものを含んでいた。
「もっと遅い時間に来ると思ってたんだけどねぇ…あ、紹介が遅れたなや…丈ちゃん、こちらはこの島をまとめてるH市の副市長さんで村杉(むらすぎ)さん…」

「はじめまして」
久子の時とは違い、丈也はスクッと立ち上がって村杉の正面に立ち、きっちりと頭を下げて挨拶した。
どことなく村杉に小馬鹿にされたような気がして我慢ならなかったのだ。
そのまま数秒間、ガンをつけるような勢いで村杉を見据える丈也。
「………」
村杉もそれに応じていたが次第に焦れてきたようだ。

しかし村杉が何か口を開こうとしたその時、
「おばさん、僕ちょっとその辺を散歩してくるよ…久々のU島だしね…!」
丈也はわざとスカしてみせ、踵を返すと
「賢、また後でな…!」
「ウン…!」
と賢に声をかけて足早にリビングを後にした。
「何だや、あのガキ…?」
村杉は明らかに丈也に不快感を抱いていた。
「都会者だからだべ…」
久子は丈也を庇いつつ村杉に同調した。
「ピキューン、ピキューン…♪」
その様子を全く無視して賢は機械的にゲームをこなしていた。
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