涙は煌く虹の如く
第1章 余所者
記録的な猛暑となっているある年の7月末のこと。

「ズザァーーーーーッ」

船が水面を切り裂いている。
ここはM県のH市。
連絡船がU島へ向けて就航している。

H市はかつて漁業の町として栄えていたが200海里問題を機に水揚げが減少、一気に寂れてしまい町中は閑散とした状態となっている。
H市の一部となっている離島U島もH市が上向きだった頃は風光明媚な自然と海の幸を売り物にした観光地として賑わっていたのだが、やはり本体の衰退に歩を合わせるように現在は過疎化が進んでいる。

「ガヤガヤガヤガヤ…」
連絡船に乗っているのは本土へ買い物に出ている高齢の主婦層ぐらいで数にするとおよそ7、8人といったところ。
彼女らは航行の間中きつい東北訛りで近所の噂話などをして盛り上がっていた。

「………」
そんな中にあって明らかに場違いな雰囲気を持った中学生と思しき少年がポツンと船の外に出て無言で佇んでいた。

少年の名前は野瀬丈也。
15歳。
東京在住の中学3年生だ。
夏休みを利用して親戚が住んでいるU島にやって来たのだ。
表向きは受験勉強の為の合宿として…
けれども今現在自分が何をすべきなのか丈也は迷っていた。

「グイッ…」
丈也は船によって勢い良く切り裂かれている水面を見つめようと身を乗り出した。
「ハッ……!」
ふと客室を見やると船員らしき中年男が丈也をジッと睨みつけていた。
どうやら丈也が間違いを起こすのではないかと不安がっているようだった。

(やれやれ……)
たった一人での船旅。
しかもさして有名とは言い難い島への旅なので訝しがられるのもやむなしではあったのだが、周りからそのような目で決めつけられてしまう年代にあることを丈也は嫌っているようであった。
「サッ…」
とはいえ勘違いされるのは本意でないので決して海へ落ちない体勢をとった上で再び海面を見つめ出した。
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