涙は煌く虹の如く
「……?」    
「バサッ…!」
丈也は着ていたTシャツをおもむろに脱ぎ、
「スサァッ…」
器用に美久に着せた。
「じょ、丈ちゃん、私…別に…」
「いいから着な!」
有無を言わせぬ口調だった。
「うん……」
俯く美久。
その仕草がしょげ込んでいるように丈也には見える。
「ハンカチのお礼だよ、ありがとう…」  
丈也は努めて優しく言った。
「うん……!」
すると美久はやっと笑顔を見せた。

「帰ろう!」
「うん!」
二人は歩き始めた。
土手を登り切り300mほど歩いたところで意を決した丈也が話し出した。
「美久……」
「何……?」
「その…左手……」
「……!?」
美久は突然ハッとして左手のみを腰の後ろに隠した。
「丈ちゃん……」
「怒ってるわけじゃないから安心して聞いて。美久、僕は君が今どんな状態で苦しんでいるかその気持ちまでは全部わかってあげられない…」
「………」
「それでも君のことを思いやることくらいはできる…君のために笑い、泣くことができる…そして…君を癒せるものなら癒してあげたい…」
丈也は美久の横顔を見つつ言葉を選んで話していた。
「自分を責めるのはやめよう……約束してくれ…」
「コクッ…」
無言で頷く美久。
「ありがとう…美久がそれを約束してくれるなら僕もあるものをやめよう…」
「もしかして…タバコ…?」
「そうだ…」
美久の勘の鋭さに丈也が驚いた様子で返答する。  
「似合わないもんなぁ…」
笑顔が戻ってきた美久。
「そう、お互い似合わないことをやめるんだ…!」
丈也もいつの間にか笑顔になっていた。

二人はその後しばらく無言で歩いていたが、今度は美久が口を開いた。
「まだ言ってなかったなや…ありがとう、丈ちゃん…」
そう言うと丈也の左腕にそっと自分の手を添えた。
「……!」
驚く丈也。
陽はゆっくりと傾き始めていた。

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