涙は煌く虹の如く
「こうしないとここじゃ生きていけねぇんだ…お前のおじきが出はってからオラたちがどんな肩身の狭い思いしてきたか…村杉の、副市長の力がなかったらオラたち…オラたちぃ……ウッ…」
言い終わらないうちに涙声になる久子。
「ウッ、ウッ、ウッ……」
そのままキッチンスペースに突っ伏して泣き出した。

「………」
その様子を見た丈也は言い過ぎたと思ったのか黙り込んでしまった。
(このままじゃ…いけない…!)
そう思った丈也は一度天を仰ぎ、目を閉じた。
数秒後、目を開き確かな意志を持つ。
「おばさん、そのままでいいから聞いて…俺は今から美久を取り返しに行く!何というか…口では上手く言えないけど…このままじゃ海斗の家ダメになっちまうと思うから…美久もおばさんも、そして賢も…今でさえバラバラなのにもっとバラバラになっちゃう…みんなが不幸になるのを俺、これ以上見てられない…余計なお世話かもしれないけど、それでも俺は行くよ…!」
「………」
久子から返事はなかったが確実に耳には届いているようだ。
「それじゃ…いってきます…!」
そう言うと丈也はゆっくりと久子の肩に触れそれからリビングを出た。
「………」
久子は伏したまま無言だった。

「ドタドタドタ…」
玄関へ向かう丈也。
「賢……!」
玄関先に賢が立っていた。
その目には涙が溢れていた。
「丈ちゃん……」
「聞いてたのか…?」
丈也の問いに頷く賢。
丈也はしゃがんで賢と正面から向き合った。
「賢…姉ちゃんに帰ってきてほしいよな…?また家族三人で楽しく暮らしたいよな…?」
再度無言で頷く賢。
「よし、俺を信じてくれ…必ず姉ちゃんを連れて帰るし、また昔のように…昔のようにな…」
丈也の中にも込み上げてくるものがあった。
「ウン…」
今度は声を出して賢が大きく頷いた。
「じゃあ…」
立ち上がり靴を履き外へ出る丈也。

もう完全に陽は落ちていた。

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