涙は煌く虹の如く
「ブンブンッ…!」
首を激しく振って考えを打ち消す丈也。
「ボートを手で漕ぐ…?」
また可能性に挑む。
「無理だ…」
結果は同じだった。
「ガアァァァッ…!!」
声にならない丈也の叫び声が響き渡る。
「ポチャ…ポチャ…」
返ってくるのは船着場に打ち寄せる波の音だけだった。
「ズサァッ…!」
蹲る丈也。
万事休すだ。

「ダアァァァッ…!」
所謂”亀の状態”になって頭を抱え込んだ丈也は再び呻いた。
「グフゥ………」
蹲ったままの丈也の口から嗚咽とも叫びともつかない声が漏れる。
「…パチャ…パチャ…!」
波打つ音だけが答えだった。
美久を助けたくとも自分一人ではどうすることもできない。
己の非力さに丈也は身悶え続けた。

「アァァァァァァァァッ…!」
声を出し続ける。
出し続けていないと正気でいられないからだ。
今現在、美久がH市のどこで何をしているかを考えただけで例えようもない憤怒の感情が沸き上がってくる。
それは権力を利用して思いを遂げんとする村杉への侮蔑感、怒りだったり、それを許した久子への怒りだったり、そのような雰囲気を作り上げた島全体に対する怒りだった。

(俺は何しにここへ来たんだ……!?)
旅の初めから繰り返し自問してきた事柄が再び頭をもたげる。
(大好きだったこの島を嫌いになるために来たのかよ…!美久がボロボロになるのをわざわざ見に来たってか…!?)
考えを詰めていくうちに、
(結局俺は何もできなかった…!美久にも…!いや、美久ばかりじゃないや…賢にも久子おばさんにも、そしてあいつらにだって何も…できなかった…!)
自分に対する怒りが勝り出してきた。
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