涙は煌く虹の如く
「ボドォッ…!ドダァァァァッ…!」
そしてその勢いで壁に身体をしたたか打ちつけ、手前の床に崩れて落ちた。
「ゲッ…ゲェッ…!」
歯が相当数折れたらしく空気の抜けたような調子で叫ぶ村杉。
口からは大量の血が溢れ出した…

「ウッ、ウッ……」
村杉の前に仁王立ちした丈也は大粒の涙を流しながら両手を握り締め、身体を震わせていた。
「アッ、アッ……」
すぐに泣き声は嗚咽に変わった。
「アッ、アッ、アッ……」
丈也は美久の姿を正視することができなかった。
「ズサッ…」
足に異様な感覚を覚える丈也。
「アッ…!」
下を見ると全裸で顔中を腫らした村杉が丈也の足を掴んでいた。
「アッ…クッ…」
「た…すけ……て……か……」
口から血を吐きながら懇願する。

「ブチィッ…!!」
丈也の頭の中が真っ白になる。
かつて河原で美久をイジメた集団を蹴散らした時にも味わった感覚。
いや、それを遥かに超える怒りの感覚だ。
「てめぇこそ美久を、美久をっ……!」
それが丈也が覚えている最後の言葉だった。


数分後。
「………!?」
丈也は己を取り戻したようだった。
「……何……?」
目の前に広がるのはさっきと同じホテルの部屋。
それは変わっていない。
ただ変わったものがあった。


「…やめて…丈ちゃん…死んじゃう…」
身体をシーツで隠し、起き上がった美久が泣きながら同じことを繰り返し呟いている。
「……ってぇ……」
両方の拳がひどく痛む。
目をやると拳の皮が所々でズル剥けて中の肉が剥き出しになっている。
「………!」
テーブルは倒され、村杉や美久の持ち物。ホテルの備品が床に散乱している。
「エッ……!?」 
そして丈也の足元にはピクリとも動かず後頭部から血を流して転がっている村杉の姿があった。
「む…ら……」
興奮状態から冷めた丈也の背中を冷や汗が伝う。
恐る恐る村杉の手首を取り脈を確かめる。
「ゲッ……!」
丈也は蒼褪め、おののき身を反らした。
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