執事の憂鬱(Melty Kiss)
「透視能力に長けていたんだ。
誰かが命の危機に晒されると、彼女の脳裏にぱっと伝達されるという常人には理解できない能力を持っていてね。
その時、俺がお前の写真なんて眺めていたから、気づいたんじゃないかな。
あ、あの子供用に改造したでたらめなトカレフは護身用で渡していたものなんだけど。
まさか、あんなふうに実際使っているって知ったのはあれが初めてだった」

紫馬は冗談を言っているわけでもないようで、そこまで一息に喋ると、灰皿に煙草を置いて、ウィスキーを煽る。

「そういえばあの頃、犯罪者が銃殺される事件が相次いでいたなと思い当たったのはあとのことだよ。
医学生って案外忙しくてさ。
世間の情報から疎くなるんだよね」

と、昔を懐かしむかのように紫馬が付け加える。

「次期総長は?」

「知っていたんじゃないかな。
あのウサギには発信機も備え付けてあったからね。
だけど、銃殺なんて気になることでもなかったんだろう」

剣呑な色を瞳に宿して、紫馬が言う。

――いや、銃殺って気にしたほうが良いような重大案件だと思うけど。

清水はそんな常識めいた感情を、ウィスキーで押し流した。
ここの連中は「普通」の概念が大きく違うのだから、仕方が無い。

それはもう、この数年で痛いほどに分かっていた。
馴らされた、と言ったほうが正確なのかもしれないが。
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