執事の憂鬱(Melty Kiss)
12.ベッドの上で
――一方。

その頃、次期総長こと、銀大雅は眠る都の隣に寝そべっていた。

幼い頃からの習慣、と言えば聞こえは良いが、つまりはずるずると添い寝することが止められずにいたのである。

起きている間は、はねっかえりのおてんばな子も、眠ってしまえば玩具のようにただひたすら愛らしい姫へと変わる。
カーテンの隙間から漏れる月明かりに照らされる都の寝顔を見つめて、その白い頬を指先で撫でる。

『パパもおにいちゃんもお母様もチョウさまもだぁいすきっ』などと無邪気に笑っているうちは、自分の恋心を伝えても意味などなさない気がして、随分前から持て余している気持ちを強引に押し殺しているうちにそれに慣れつつある自分が居た。

それでも、今日のように生々しいランドセルの傷を見せつけられたら、張り裂けそうに胸が痛む。

せめて、自分の部下をつけておきたかった、と。
心底思う。

ただ、小学校に付き添って不自然でないような外見の、しかも信頼を置ける部下というのが思いつかない。
学校のすぐ傍に待機はさせているものの、都の方が成長し、こうして部下を撒くことすら出来るようになったのだ。


これから先、どうすれば彼女を保護できるだろうか……。

いっそ、自分が中学を辞めてでも付き添っていたいと思うが、次期総長になる身であることを思えば、そうやって感情に任せて暴走するわけにもいかなかった。
大雅の想い人を察知した組のものが、都を消しにかからないとも限らないのだ。

「実質ナンバーツーである、若頭補佐紫馬の娘なので仕方がなく我々が面倒を見てるんですよ。ほら、あの人ってああだから仕方がないでしょう?」
というスタンスを崩すわけにはいかない。
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