皎皎天中月
「姫様、お目覚めになりましたか」
 侍女が天蓋の幕を開ける。
「おはようございます」
「おはよう、稚宝。昨晩の不寝番は稚宝だったのね」
 侍女は頷いた。
「何か変わったことはなかった?」
「いいえ。姫様はよくお休みでした……いえ、」
 何か言いかけたので、先を促す。侍女は微笑みながら続けた。
「昨日の機織りが、よほどお気に召したのですね。夢を見ていらしたのか、腕が動いていらっしゃいました。あら」
 あの男にも、確か同じようなことを言われた。何かに気付いて、侍女がしゃがみこむ。
「どうしたの」
「姫様、失くしたと仰っていた耳飾りが」

 侍女は掴んだものを見せた。あの男が持ち去った赤い宝玉の耳飾りがそこにあった。
 やはり、あの男は月天子なのだ。今は夜明け近くに細い月が見える。月が出ている時刻にこの部屋に来た。私が怒ったので謝罪代わりに返していったのだろう。
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