皎皎天中月
 うさぎがいる気配がなくなるまで見送っていた。再び西を向く。
 恵孝は温かいものがなくなってしまった辺りを寂しく思いながら、首から提げていた布を外す。結び目を解き、大きく広げてはたく。布の端と端とを合わせて小さく畳み、背中から荷袋を下ろしてそこに仕舞い入れた。また背負い、歩き出した。

 ずっと一人だったから、か。
 あのうさぎが、話の中で何度か「姐さん」と呼んだ者がいる。動物がいる姿はまだ見ていないが、少なくともうさぎは一人きりではないようだ。

 ここからはまた一人旅だ。ひたすら、進むしかない。

「一人?」

 声が聞こえた。
 恵孝ははっとして立ち止まる。

 まさかうさぎかと思い振り返ってみるが、姿はない。
 気のせいだろうか。少し笑いを含んだその声は、菜音のそれによく似ていた。 
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