(短編集)クレイジー
『愚かなのは誰だい』
 


「どうしてわたし達は違うんだろうね。」


人間と言うものは厄介で。
自分達と違うものを中々受け入れられないのだ。
常識だとか普通だとか、そんな言葉に縛られる。
そうしていつだって、その決められた枠からはみ出す者は異人扱い。

さわさわと指先を流れるのは、小さな彼女の白く輝く毛。
何か言いたそうにつぶらな瞳はわたしを見上げる。


「大丈夫だからね。心配しないで。」


そう、心配しないで。
もうツライ思いはしないでいいんだ。

彼女は所謂妖怪で。
人間なのか、狐なのか、それは彼女にも分からないと話していた。
あるときは人間で、あるときは狐。
そんな彼女を村の皆は忌み嫌った。
忌まわしい、と。
厄を招くに決まっている、と。

それでもわたしにとっては唯一無二の存在。
大切な友達なのだ。

だから、そう。


「もう傷付くことなんてないんだから。ね?」


今の私に出来ることなんてあまり浮かばなくて。
ただ、こうすることでしか救えない気がした。

ぽたぽたと地面に染みをつくって、彼女の体から熱が消えていく。
白かった体にはじんわりと赤が滲んで。
それは私の熱までも奪って行くのだ。


「一緒にいくから、怖くないよ。」


ずるずるとなだれ込むように横たわった彼女の体から、短刀を抜きとった。

私の大好きな、彼女。

生きていたって心の傷は消えることは無い。
だったらわたしが、この手で。


「わたしも今、いくよ。」


向こう側でたくさんお話しようね。

人間のなんて愚かなことかと、上から笑ってやろうじゃないか。


(そうしてわたしのことも愚かだと笑ってくれ)

end.
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