雪花
 振り向いた相馬は、いつもの笑顔だった。

「はよっ」

 いつもの明るい声。
 涙は、ない。

「…ぉはよ」

 動揺して、声がかすれた。

「早いね。なに見てるの?」

 動揺を隠して尋ねる。少し早口になった。

「雪、降るよ」

「え?」

「今日、雪が降る」

 迷いのないはっきりとした口調。

 天気予報は、晴れだと言っていた。
 だけど、相馬が言う事は本当な気がした。

 この時、相馬はどんな気持ちでいたのだろう。わからないけど、確かにいつもの相馬だった。


 涙の訳なんて聞けるはずもない。



 少しずつざわざわしてきた。もうみんな登校してくる時間だ。

「雪が降ったら、…」

「おはよ、相馬。早いじゃん。響さんも」

 相馬の言葉は、登校してきたクラスメートによって遮られた。

 私は、自分の席へ行く。
 それが、いつもの日常。

 相馬はみんなの人気者で、私は一人。

 相馬は、私の日常には、イレギュラーな存在だ。

「雪華っ」

 そんな相馬が、私の名前を呼ぶ。

「雪が降ったら、屋上に来て」

 みんなが不思議そうに私を見ている。
 それはそうだろう。
 私と相馬には共通点なんてないんだから。







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