あなたが一番欲しかった言葉
「俺は彼女のことしか見えず、まったく女房のことを考えてなかった。
毎晩『仕事だ』と言って、偽るのも限界だったんだな。女房は異変を感じ、探偵を雇ったんだ」

結城さんはグラスを回して、一口だけバーボンを喉に流し込んだ。

「何もかもばれたよ。
『ばれた』って言葉を使うのは、何か隠し事をしていたようで好きじゃないが、他に言いようがないだろう。
探偵ってのは凄いんだな。祥子の部屋に並んで入る姿と、玄関先でキスをする姿がばっちり写真に撮られていたよ。突きつけられ、それで万事休すさ」

俺は、ばれたのがまるで自分のことのように思えて、苦しくなった。

エミさんには家庭がある。

俺たちもいつかは、旦那にばれる日が来るのかもしれない。
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