あなたが一番欲しかった言葉
お兄さんの語るイサムの姿は、弟のことを語るというより、まるで片想いの恋人のことでも語っているよう、何か違和感を感じた。

「皮肉なもんです。
こうして数年振りにイサムと会えたというのに、あいつは何も僕に語りかけてくれないのだから」

不思議に思っていたことを聞いてみた。

「イサムとお兄さんは、どうして疎遠になったんですか?」

お兄さんは深いため息をついたのち、意を決して口を開いた。


「僕はイサムのことが大好きだった。
イサムは弟というよりも、逆に僕にとっては兄のように頼れる存在だった。
それがおいつは疎かったんだと思います」


まるで独り言のように、お兄さんは過去の出来事を話し始めた。
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