あなたが一番欲しかった言葉
「イサム・・・」

去りかけたイサムに向けて、声をかけた。

振り向いたイサムは微かに首を左右に振った。「何も言うな」そんな心の声が聞こえた。
イサムは黙ってトイレのドアを開け、歩き去っていった。

一人トイレに残された僕は、動けずに立ち尽くす。

視線を感じてゆっくりと振り向くと、そこに自分がいた。

洗面台の鏡に映る自分の顔。
蛍光灯の弱い光に照らされた顔が、土色に黒ずんでいる。


怒鳴るでも、殴るでもなく、静かに自分の感情を告げたイサムに、人間としての器の大きさを感じていた。
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