ココアブラウン

落とす

今日は朝から雨が降っている。

2月に入ったばかりで、雪に変わらないのが不思議なくらいの冷たいそぼふる雨。

しとしとと降りしきる雨は今日は止みそうもない。


ー伊勢物語では雨がそぼふるのは3月のことだったねー


あたしは心の中で新に話しかけた。


ホテルの一室で喪服を着て、髪を丁寧に巻いていく。

バックに1冊の文庫本と数珠、小さなピルケースを入れた。


新の葬儀は実家のある東京ではなくてこの近くの斎場で行われることになった。

あたしに新からの手紙が届いた日、部長にも同じように手紙が届いていた。

丁寧なお詫びに添えて葬儀の手配の依頼が書かれていたと聞いた。

両親にも何も伝えていなかったらしく、部長が東京の新の実家に電話をしたら新の年老いた母親は絶句して受話器を取り落としたという。




誰にも何も言わずにたった一人で旅立ってしまった。



ホテルのドアがノックされる。

絵里が迎えにくる時間だった。
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