ココアブラウン
服を変えただけで会社のオトコたちはあたしのことをみているらしい。

昼下がり、絵里がそっと耳打ちしてきた。

「先輩、営業の人たちすっごい気にしてる」

「何を?」

「先輩が何で劇的に変わったのか」

「ただ、新しい服を着ただけじゃない」

「先輩くらいの歳で結婚もしてる人がこんなに変わるのは絶対何かきっかけがあるから私に聞き出せってみんなうるさくて」

「それって誰?」

「誰かはいえないですけどね」



ー新が気にしてくれたらー



鏡の前で練習した上目遣いで絵里を見た。

「それそれ、そういう目線も今までなかった。やっぱ新ちゃんですか?」

「井上さん?違うわ」

自分で意識したよりずっと強い口調で否定していた。

絵里は少しびっくりしたようだった。

「そういえば新ちゃん、今日は静かですよね。仕事たまってるっていってたけど。会社で話題になるようなことはいち早く食いつく野次馬根性のヤツなのに」

「井上さんには興味ないことなんじゃない?」

「ずーっと先輩のこと気にしてたのにそういう変化には鈍いんだな、あいつ。あとでアピールしときますよ。きちんとほめろって」

「余計なことしなくていいわ、仕事続けて」

「あーあ。きれいになっても中身は変わってないんですね。相変わらずお堅いですよ」


絵里の言葉はうわのそらだった。

今日の朝、新はあたしを避けた。

本当に避けられているのか確かめたかった。

新があたしの変化に気づいてくれたのか知りたい。


「絵里ちゃん、今日さ」

「何です?」

「飲み会っていってたよね?あたし行きたいんだけど」

「もちろんですよ。じゃ、7時です。やっぱ中身もちょっと変わったかな?前はめったに行かなかったのに。今日は先輩目立つんじゃない?絶対いろいろ聞かれますよ」
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