あかねいろ
『昔、大斗が喋るようになった次の日にね、初めて外に連れ出した、その時に行った所を1日中ずっと回っていたの』

『えっ…?』

『大斗とあたしの世界が重なって…少しだけ一緒に動いた時と同じ所。遊園地に行って、ちょっとお洒落なレストランでご飯食べて、大斗の家に行った。』


夕陽は何も言えずただ咲を見つめる。


『あたし、あの時、大斗が喋ったことが嬉しくて、ちょっとだけ笑ったのが嬉しくて、勢いで連れ出したんだけどね、遊園地に行ってもアイツ強烈な絶叫マシンには背が足りなくて乗れなくて…』


咲は夜空を仰いで小さく笑う。


『大斗ったら不貞腐れて、言葉少ないのに、ますますブスッたれて…あたしヤバいって思ってレストランに連れて行った。』


思い出、話…?


『お店で、何食べる?ってメニュー見せたら、たいして見ないで「ハンバーグ」って。でも運ばれてきたハンバーグ見て、ちょびっと笑って。食べて「うまい」って言って、また笑った。その日、大斗はまだ「ハンバーグ」と「うまい」しかまともな言葉言わなかったの。』



手すりに掴まって空を見上げている咲さんの後ろで

ネオンがキラキラしていた。


『でも、あたしには言葉なんていらなかった。大斗が笑ってくれたから。それだけで良かった。』


『咲さん…?』


『あたしね…大斗が段々笑ったり、言葉言ったり、そういうのがいつの間にか楽しみで、色んな事、大斗とやったんだ。』


冬の風が咲さんの綺麗な髪を揺らしていた。

でも、その風が咲さんの涙を誘っている気がしてしかたない…。


『それに大斗は狂ったみたいにご飯食べるようになって…見る見る背が伸びてくから、あたしも楽しくて、大斗も…それがわかってるからか、食べることに執着してね…』


咲さんは泣きそうになりながら笑っている。


『よっぽど…食べ物に飢えてたのね…笑えたっ』

クスクスと思い出し笑い。


『悪い事も沢山して…喧嘩して、物破壊して…理由なんてお互い持ってるイライラを消す為、不安を消す為…大斗とあたしが笑う為…そして、その為に抱き合うの…』


それ…

前に言ってた…


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