あかねいろ

ハハハッと苦笑い。

夕陽はわけわからなくて、きょとんとしている。

『ホストだったんだよ…。他にも色々。あの頃はもうそりゃ色んな意味で酷くてね。人の気持ちなんて、うまく利用できたらそれで良かったんだ。』


しげさんが「俺」と自分を呼ぶのを、あたしは初めて聞いた。


『理由は違うけど、俺も前の大斗みたいに死んでるのと同じ状態だったから。だからアイツを見てると、昔の自分と重なってほっとけないんだ』


『…』


『ホストを否定するわけではないんだよ。言うならば心の問題でね。夕陽ちゃんはさっき咲の事を出していたけど、大斗は「ちゃんと考えること」をしない為に、咲に逃げていたんだ。咲も同じ』


『依存…ですか?咲さんが言ってたんです…』


マスターは頷く。


『大斗は今…必死に何かに依存しないで自分を見つめようとしている。人と、向き合おうとしている。大斗のその相手に一番近いのは君だよ、夕陽ちゃん』



しげさんの言葉はいつも深い。


『あたし…?』


大斗が向き合う相手があたし…?

どうして…

しげさんはきっと、色んな事を解っているのに、絶対に教えてくれない。

しげさんの言葉の意味を…

自分の想いを…

自らの力で「見付けなさい」と言う。


『ねぇ?しげさん。あたしはやっぱり大斗とずっと仲良くしていたいよ。』


『夕陽ちゃんは、大斗の事…好き?』


しげさんの言葉に重ねるようにあたしは言った。


『…大斗の事、好きだよ。だから大事すぎるから「恋」とは言いたくないの。絶対に言いたくない。「恋」じゃないの』


友達でいたいの…


しげさんの顔をしっかり見据えて言った。


『そうか。』


しげさんの顔が少し悲しそうだったけど、それはあたしの心を読んだからだと思った。


しげさんはきっと…

あたしより、ずっと「あたしの心の中」が見えている気がする。

今…マスターには、何が見えているんだろう…




< 304 / 469 >

この作品をシェア

pagetop