あかねいろ

過去…


――――――――――――



ガシャーン!!


勢い良く跳んできた茶碗は顔のギリギリをかすめた。


『飯買ってこいよ』

深夜2時。

無理やり起こされ、まだ寝ぼけているのに父親は怒鳴りつける。


眠い…。


ぼーっとしているとみぞおちに蹴りが跳ぶ。

咳き込む。

慌てて財布を掴みパジャマのまま外に出た。


とりあえず近くのコンビニに行く。

毎日こんなだった。


こっそりと母親がくれる小遣いは結局こうして、父親の為に消えていく。

父親が寝ている朝方の質素な朝食と給食で食い繋ぐ日々。

こんなでは身体も大きくなるはずがない。小学校6年生の成長期、標準よりもずっと小さかった。


今日…財布の中には300円しかない。


これで、アイツを満足させる何が買えるんだ?


フラフラとコンビニの中を歩く。


キャハハハハーッ!


深夜の闇を切り裂く高音の笑い声と共に、若い男女が入ってきた。


女の方は相当酔っ払っているのか、足取りも定まらない。


『あー子どもが見えるー?!座敷わらしぃ?幻覚ぅ?かわいー♪』

気付いた女が突然話しかけてきた。

びっくりして動けない。


『なぁに?これが欲しいのぉ?妖精君?!あたしが買ってあげよお♪』


妖精…?俺のことか?


キャハーッと軽快に笑って見ず知らずの彼女は、目の前の焼きうどんとオムライスに隣の焼酎のボトルを抱えてレジに向かって行った。


連れの男に睨まれるが気づかず、その場でぼーっと彼女を見ていた。


すぐ戻ってくると、袋にお釣りをジャラジャラ入れて渡してきた。


『ニューヨークに連れていって下さい!!』


彼女は目の前でパンパンと手を叩いてフラフラなスキップで去って行った。


俺は神社か??何だあれは…?


よく分からないまま家路に着く。

玄関の前でとりあえず、つり銭をポケットに入れた。


あの人は多分1万円で払っている…これで暫く生きて行ける…


コンビニの袋を静かに父親の前に置くと部屋に入った。


やっと眠れる…。


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