だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
11.お兄ちゃんの胸の内
◇大雅Side◇

抱きしめたい、と、騒ぐ手をぎゅっと握り締めて都さんを見送った。
後姿を見るだけで、泣いていることなんて分かるのに。

何をそこまで、頑張っているんですかと。
腕の中に閉じ込めて、耳元で甘く囁いてあげられたらどれほど幸せだろうか。

ため息を飲み込んで、ポケットに放り込んでいた都さんのケータイ電話を取り出した。


紫馬さんから電話があったのは正午を少し回ったところだった。
幸い、今週末がセンター試験ということもあり、学校は午前中で終わる。
帰り支度をしていたところだった。

『さっき、学校から電話がかかってきて、うちの姫が教室から出て行ったって言うんですよねぇ』

いつもと変わらぬのんびりとした口調で告げられた一言目に、金縛りにあったような錯覚に襲われた。

『本当は、今すぐ駆けつけたいんですけどね。
今、ちょっと遠くに居るものですから。駆けつける便がないんですよ。
どうせ、たいしたことはないと思うんですけどね』

彼は今、研修医として離島で仕事をしている。
この事実を知っているものはほんの一部だ。
「だぁって若頭ともあろうものが研修医、だなんてかっこつかないでしょう?」というのが、事実を隠蔽したがる紫馬さんの冗談交じりの言い分だ。

< 79 / 253 >

この作品をシェア

pagetop