透明図
私は思いだしたように、もう一つだけ質問してしまった。

さっき途切れてしまったものとは違う。別のこと。

どうして、死んだ鳩をだいていたの?

私の質問が彼のびんせんに触れてしまったのか、藤橋君はよどみながら答える。

「あぁ…、墓…作って埋めてやってたんだ。きっと…俺のせいだから。せめてさ、俺がとむらってやらないと…、かわいそうじゃんか。」

彼の言葉の何が真実なのかはわからない。

でもきっと藤橋君はウソをつかない。少なくても私の前では。

そんな気がした。

その時、ふと見えてしまった。

暗く重たい鎖に閉ざされた向こうに、彼の心がかすかにではあるが確かに、赤く燃えているのを。

私は彼が弱々しくも情熱の火を燈していることを知ってしまった。

そうなんだ。

そうか、そうなんだ。

日は、いよいよ空を暗く染め上げ、遠くに瞬かない星が現れる。

まだ話すことはいくつもあったのだろう。

でも、日は沈んだし、今日はもうこれで十分だった。

私たちは別れのやりとりを組み交わして、お互いの帰路につく。

私はノラをぎゅっと抱きしめてから、自転車にまたがった。

私はペダルをこいで、家路を急いだ。

そよぐ夕なぎに体をいっぱいにしながら。
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