【短集・ホラー】白紙の小説



お母さんは
もういないんだ





当たり前だった






月に照らされ
妖しく光る包丁は
赤黒く染まっていた




頭から
離れなかった





お母さんが発した
"凄いわね"
と言う言葉




夢にまで見た
あの言葉

愛おしげに僕を包んで
お母さんは
夢で誉めてくれたよ








僕にも
言ってほしかった





中学生の子に言うなら
僕にも言って
くれるよね?




傷口が痛んだ



見ると
お母さんに付けられた
腕の傷口に、また涙が
伝っていた





バラバラになった
お母さんの埋まった
地面を見つめ

僕は泣いた








"凄いわね"





そう聞こえた気がして





僕の心の中は
安らぎでいっぱいだった









…………Fin




< 6 / 31 >

この作品をシェア

pagetop