愛しい遺書
Ⅱ.Love・Mania
「おはようございます」

午後7時30分

あたしはLove・Maniaの扉を開けた。

「おはよう。いつも早いね」

ニコニコ笑いながら迎えてくれたのは、マスターの久世さん。

「これでもゆっくり歩いてきたんですよ」

そう言いながらあたしは荷物を置きにスタッフルームに入った。

久世さんは28歳でこの店を開き、現在30歳。見た目はとてもイカツいけど、優しくて頼れる存在だ。色々と相談にものってくれる。

たまたま友達の結婚式の二次会でここに来た時、店の雰囲気に惚れてしまったあたしは掲示板の数あるフライヤーの中からこの店の募集広告を偶然にも見つけ、速攻雇って欲しいと頼んだ。

久世さんはというと、カラオケで歌っていたあたしの歌声に一目惚れして、近々辞めて行くシンガーの後がまをあたしにお願いできないか、隙を見て聞こうとしていたと言うのだ。

そこへタイミングよくあたしが話し掛けて、即OK。

次の日からあたしはスタッフ兼シンガーとなった。午後8時から午前4時までの勤務。時給1000円、歌う日は衣裳代という名のお小遣いがついて日当1万5千円。客がくれたチップは貰っていい。
こういう仕事の給料の相場は知らないけど、あたしは結構気に入ってる。調子のいい月はチップも入れると25万は稼げたりする。休みも前以て申告さえずれば、祝日や週末も好きな時に貰える。

そして何よりスタッフ同士がとても仲がいい。ドロドロとした人間関係なんて、ここには存在しない。だからあたしはこの店が好き。それまでおばちゃんたちに混ざってミシンをひたすら踏んでいた縫製工場をさっさと辞めて、あたしはこの店一本に絞った。

天職だと思って毎日張り切って頑張ってる。


ロッカーの鍵を開けるとバッグを置き、制服なんてのもないからロッカーの鏡でメイクをチェックすると、すぐにスタッフルームを出た。

「キキちゃん早速だけど、今週末パーティー入ったよ。大丈夫?」

そう言って久世さんはフライヤーをあたしによこした。それには『レゲエ★ナイト』と印刷されていた。

「はい。大丈夫ですよ」

あたしはフライヤーを見ながら言った。

< 23 / 99 >

この作品をシェア

pagetop